宝満山で体力測定をしました
― コロナ禍のなかで体力の維持はできてますか? ―
日本山岳会北九州支部 13533 磯野 文雄
4月24日(土)、宝満山の正面登山道を利用して、登山体力の測定を行いました。参加者は、25人、当会の参加者は15人(スタッフを含む)、季刊「noboro」(西日本新聞社)における告知もあり一般の参加者10人、被験者は20人、被験者の平均年齢は68歳でした。登山体力の測定は、鹿屋体育大学の山本正嘉先生が提唱されている「マイペース登高能力テスト」を使わせていただきました。本稿は、その結果報告です。
マイペース登高能力テストというのは、「きつさを感じる手前のペース、右表の「12」、つまりマイペースで、疲労しなように登高した時に、1 時間あたりで何 m の登高ができるかによって、何メッツの体力があるかを推定するものです。」(表1参照)
この表の数値を10倍すれば、おおむねその時の心拍数に該当する、と言われています。言い換えれば、心拍数がおおむね120くらいのペースで歩き続けることが大切です。
くれぐれも、オ^バーペースにならないよう、注意してください。
【結論】
これまで、当会では3回、登山体力の測定を行いました。結論から申し上げますと、常日頃から体調を管理して、登山(低山や里山を含む)をつづけることで、ほぼ登高能力を維持できている、ということがわかりました。
例えばM・Nさん(女性)の場合、平成29年に行った測定では6.5メッツの体力と推定されていました。今回も同様に6.5メッツでした。持病をうまくコントロールして登山を続けられている姿には、深い敬意を表します。
男性をお二人。N・Mさん(男性)の場合、平成28年に行った測定では7メッツの体力と推定されていましたが、今回は8.3メッツと上昇していました。同じく3回とも測定され、今回お孫さんと参加されたN・Oさんは、平成28年8.8メッツ、平成29年が8.8メッツ、令和3年が7.3メッツ(お孫さんを見守られた)でした。併せて、お孫さんの登高能力にも敬意を表します。
重要な注:
前2回(平成28年、29年)の体力測定の結果と、計算の基準を合わせるために、今回会場にてお伝えしたメッツ値に、一律に平均値の0.5をプラスしました。(前回は、登高率300m/hで6メッツと計算し、今回は登高率350m/hを6メッツで計算したため)なお、今回の「登高能力テスト」は、季刊「noboro」(西日本新聞社)誌の夏号に掲載される予定です。
【 結果① ― 年齢と登高時間 ― 】
表2 は、「年齢と登高時間の相関図(単位:分)」です。 この表からは、60代後半から70代前半の参加者が多く、ほぼ120分前後の登高時間に集中していることがわかります。なかには、70代を超えてなお、100分以下の時間で、登頂される方が3人おられました。平均年齢は68歳で、平均の登高時間は103分でした。
このコースの標準タイムは、2時間とされていることが多いので、それと較べてみても、平均年齢に比して早い(登高能力が高い)と言えるのではないでしょうか。
表2 「年齢と登高時間(単位:分)の相関図」
【 結果② ―年齢とメッツ値 ― 】
表3は、「年齢とメッツ値」の相関関係を表した表です。この表からは、60代後半から70代前半の年齢層に、6.5メッツ前後のキツサに耐えられる参加者が集まっていることがわかります。
また、約10メッツのキツサに耐えられる体力の持ち主がお二人参加されています。登頂するまでの時間は63分と65分で、平均のメッツ値は6.99でした。
表3「年齢とメッツ値の相関図」
【 結果③ -主観強度(きつさ)の状況― 】
このテストでは「きつさを感じる手前のペース=12」で歩いてもらうことが大切な条件です。安全性を保ちながらテストを行うためには、きつさを感じない上限のスピードで歩くことが必要です。表4 は、このペースで歩けていたかを確認するために、出発地点で全員に心肺のきつさを尋ねた結果です。
平均値で見ると、心肺のきつさが約13(12.7)で、若干オーバーペースで歩いていたことがわかります。表4 は、このデータをグラフにしたものです。13(ややきつい)のペースで歩くと体内には乳酸が蓄積しはじめ、筋が疲労したり、息切れが起こる人が多くなります。
表4「主観強度ごとの人数」(未回答2人)
今回、速く歩きすぎてしまった人は、普段山を歩く時と同じような感覚で、何度か主観強度を自問自答しながら歩いているうちに、マイペースがつかめると思います。このテストは自分でできるので、次回は落ち着いた環境でやってみるとよいでしょう。
【今後の課題】
これは磯野の個人的な印象ですが、今回参加いただいた方々は、日常的に(低山を含め)登山をされている方々なので、「全体的に、もう少し体力的には(つまり、メッツ値としては)上位にある。」のではないか、と感じています。つまり、実験室と実際のフィールドとの差異です。
かつて、山本先生の「美ヶ原実施結果」では、『表1 のタイムは、もう少し制限を緩くしてもよいかもしれません。』とコメントされています。
そこで、皆さんの登高時間を、「参加要領2ページの表2」の考え方で再計算しました。大まかにいうと、参加者のメッツ値の平均値が6.99から7.5に(約0.5)上昇しましたが、これはまたの機会があればご報告したいと思います。
もう一つ、参加者の年齢層の課題です。登山中に青年や壮年の方(男女とも)を見かけることが多くなりました。一方で、多くの山岳団体は、会員が減少し、解散や活動の縮小をしています。今回、表を作成しつつ、青・壮年層のデータがないことに気づきました。大きな課題ですが、会の継承のためには避けて通ることができない課題です。
実施に際しては、山本正嘉先生をはじめ長野県の山岳総合センターの諸資料を参考にさせていただきました。我々は、これらの成果に感謝し尊重しつつ、自らの登山を振り返り、より安全な登山をするように努めることで、先生方の研究と安全登山への思いに応えたいと思います。日向支部長をはじめ、竹本副支部長、赤瀬自然保護委員、あだると山の会の酒井氏には、忙しいなかご協力いただきました。併せて、参加していただいた皆さんの友情とご協力に心から感謝いたします。
宝満山マイペース登高能力テスト参加者:25人(一般参加10人)
スタッフ 磯野文雄(CL) 竹本正幸 赤瀬榮吉 会員:日向祥剛 竹本加代子 森本信子
縄田正芳 縄手修 歳弘逸郎 三浦利夫 塚本久嘉 横山修二 支部友:縄田恵美美子 ビジター:久保心花 岡田慶生